個別株投資を始める前と後

日本株投資

自分は長らくお金に疎く、資産運用はおろか貯蓄も鼻で笑い、「宵越しの銭は持たない」とか「明日死ぬかもしれないから」とか、とにかくお金に頓着しないことが大物の特徴なんだと、豪快に生きたいとか考えていました。株式投資に関しては、父親が全く無勉強で「天下のソニーは下がらない」とか、そんな感じで大体で株を買い、ソニーショックで500万円損、とか食らっている姿を見ていたり、職場の上司が株価変動の激しいグロース市場(当時は違う名前)でデイトレのような売買をして勝ったり負けたりして、まあ負けが大きいんでしょう、いい大人が実家から未だに仕送りをもらっている、と言っているのを聴いたりして、「とにかく株はまともな者がやるもんじゃない」と思っていました。

小説家の石田衣良さんが徹子の部屋で自著「波のうえの魔術師」という作品は2回読めば日本個別株投資デビュー出来るくらいの内容だ、と言っているのを見て、読んでみましたが、「新聞2誌を毎日隅から隅まで読み」「個別の株価のチャートを精査して底値で買い始め、初動で下がれば売り、上昇に乗れたら買い上がっていく」とか、とても働きながらはやってられないよ、というような内容で、しかも石田さんが実際に運用益を出していたのはバブルへ向かう好景気の頃で、単に全体相場が良かったんじゃないの、と疑問で、やる気は起きなかった。しかも、その前後にもITバブルや米同時多発テロ、ライブドアショックなど、しょっちゅう何かしらで全体相場は暴落していた。リーマンショックの時は「さすがに割安、買い時と観る」といった言説もちらほら聴かれましたが、自分は悲観的でした。「株なんて、今が安くて買っても、何年か安定して上がっても、結局また暴落で吹っ飛ぶ」という感覚でした。以来、投資運用などという選択肢はないまま、だいぶ年を取ってしまいました。

自分は個別株投資を始めたのは2018年末ですが、当時アベノミクス末期で「日経平均株価バブル期超え」と報じられ、素人目線では「官制株高で無理矢理上げた、暴落前夜。これ以上上は見込みづらい」と見えました。しかし、そんな時期に何故始めたかと言えば、余裕資金があったからです。サラリーマンとしてのキャリアは持病もあって上を目指すなんてとんでもなく、定年まで働ければ大したもん、という程度。か細い目先の安定にしがみついては危険。独立起業は必須、と、資金を貯めていましたが、独立起業に資金がいらない世の中になっていました。じゃあお金どうしようかとなり、運用に回すか、と。株の入門本を一冊と、ピーター・リンチの名著「株で勝つ」を読み込んだ上で、踏み切りました。

「株で勝つ」を読んで色々蒙が啓かれました。大原則として余裕資金の範囲でやる、と。そして破産に繋がる信用取引をしない、と。これだけ守るだけで安全です。よく聞く「株で破産」とは、信用取引によるものだとわかりました。そして個別株投資は相場全般と無関係、とも。実際リーマンショック時も市場の1割の株は上がっていた。私も2022年の下落相場で、自分の年間成績は+でした。そしてこの本には、何年かに1回来る暴落は良い会社の株をバーゲン価格まで下げてくれる買い場であり、そこで売ってしまうようなら株式投資で成果をあげられないだろう、ともあります。リンチは大暴落相場のブラックマンデーの年も自身の運用するファンドを+成績で終え、任期中のそのファンドの年平均成長率はS&P指数の倍以上だったそうです。

そして現代では現役の個人投資家達もSNSで情報発信もしており、かぶ1000さんなど、バブル崩壊もリーマンショックも悠々乗り越え、資産を何百倍にもした実例を目にすることも出来ます。これでようやく自分も投資に踏み切れました。それから約6年間の現時点で資産は倍増しています。いちおう同期間の日経平均株価の上昇率よりも高いです。

しかし、自分にとっては運用資産増よりもリテラシーが高まったことが大きいです。指数を上回れないようなら個別株投資など意味は無い、インデックス投資でほったらかしがいい、という意見もありますが、資産増だけが目的ならそうなんでしょうけど、個別株投資は投資先企業やその周辺の会社やマクロ的な状況などをよく調べなければならず、経済というものの理解が深まります。昨今のインフレ、例えばガソリン高には石油元売り6社、どれを買っても対応出来ました。私は買うのが遅れた方ですが、スタンドのガソリン価格を見て、ずいぶん高くなったなあ、と思った頃でも十分間に合った。こういう対応も出来る。こうしたダイレクトな事例だけではなくインフレ時は株価は上がりやすく、「インフレには株」とも言われているようですね。つまり株式投資はインフレヘッジでもある。インフレを追い風に出来る。これだけでも安心感がある。どんな状況でも(リーマンショックのような世界同時不況でも)、業績を上げている会社はあり、その会社の経営権の一部(株)を買うことでおこぼれに与れる。株を危険視していた頃の自分のままなら今頃「食料品も燃料費も上がって可処分所得は減っていく、何が日経平均4万円突破だ、どうすればいいんだ」と思っていたかもしれません。今はずいぶん落ち着いています。人生が変わったと言えるかもしれません。

リンチの「株で勝つ」なくしてこの成果はあり得なかった。株がろくなもんじゃない、と思われがちなのは、真面目にやる人が結構少ないことが原因かと。うちの父親然り、私の昔の上司然り。いい加減に取り組んで損ばかりしている人が目につきがちだからかと。最近では卓球の水谷さんです。この上昇相場が続く23年24年に何千万円損しているんだ、と。本一冊くらい読みなさいよと。「株で勝つ」には、多くの人が株を買うのに5分と考えない、家電やティッシュを買うのには色々調べて悩むくせに、ともあります。少なくとも家電を買うくらいには考えてから株を買え、と。当り前のことなのに、おろそかにする人が多い。少し真面目にやったら特別な才能や頭脳はいらない、とも書かれていますが、私もそう思います。そこまで努力もしていません。私生活を何よりも優先しています。「投資には一生手を出しません」と、ついこの間もある人にXで言われましたが、おかしなものじゃなければ、例えば個別株投資はそんなに儲からなくても色々勉強になって、余裕資金でやればそんな悪いもんじゃないですよ、とだけ言っておきました。やるやらないは自由ですが・・・私はやって良かったし、これからもやっていきます。

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